上手な芯出しの仕方(カップリングアライメント)

芯出しに求められる技能
芯出しは高度で熟練を必要とする作業とされ、特に芯出し作業に必要とされる技能・能力としては、
- 正確・精密に測定する技能
- 測定した数値が良いかどうか判断する能力
- 数値に基づいて機械を適切に動かす能力
などが挙げられます。芯出し作業に使用するツールには金属製の定規やダイヤルゲージ、レーザーを用いた測定器などがありますが、いずれを使用するにしてもこれらが重要であることに変わりはありません。
使用するツールで違いが出てくるのは、定規やダイヤルゲージではこれらが作業者の能力に大きく依存するのに対し、レーザーを用いた測定器では精密な測定に加え、ツール側で数値の評価、機械の動かし方の指示をするため、作業者の能力に左右されず誰でも正確な芯出しが行えるという点です。
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いずれのツールを使う場合も芯出しの基本は同じです。ダイヤルゲージなどを使う場合も、正確な測定と手順を踏んだ作業を進めていけば、芯出しは決して難しいものではありません。
ここではポンプの芯出しを例に、芯出しの作業の進め方をお話しします。
芯出しの3ステップ
芯出しは次の3つを順に実行していきます。これはどんな大きさの回転機でも同じです。
- 現在の状態を調べる
- 「動かす量(=修正量)」を計算する
- 決められた範囲(許容値)になるまで1.2.を繰り返す
ここで大事なのは1.現在の芯出し状態を正確・精密に測定することです。この測定値によってポンプに対するモーターの位置を把握し、これを基に「動かす量(=修正量)」を決めるからです。
「動かす量(=修正量)」は
- 測定値とカップリングの直径
- カップリングから前脚ボルトまでの距離
- 前脚と後脚ボルトの間隔
から比例計算で求めることが出来ます。
芯出しに必要な精度
理想的な芯出しとは、「ポンプが運転されたとき、ポンプとモーターの回転中心線が一直線に並んだ状態」になるように機械を配置することですから、この状態からいくら外れているかを『芯ずれ』と『面開き』で表現します。
一般的なモーターは、前脚、後脚のボルトを緩めれば上下・左右に動かすことができます。そのため、芯出しではこの2つの方向で、芯ずれ、面開きを測定します。
芯ずれとは、カップリング部分でポンプの回転中心線に対して、モーターの軸の回転中心線が高さや左右でどれだけ違うかを表したものです。上下方向の芯ずれの値、左右方向の芯ずれの値をそれぞれ測定します。
面開きとは、カップリングの隙間の差(面間距離の差)を表したものです。上下方向の面開きの値、左右方向の面開きの値を測定します。芯ずれ、面開きとも測定は0.01mmの精度で行わなければなりません。多くの場合、芯出しの許容値は0.05mmだからです。
精度良く測定するためのツール
測定に金属製の定規を使った場合、ポンプとモーターのどちらが高いのかを知ることは可能でも、その差を0.01mmの細かさで知ることは困難です。
やはり精密な測定を行うための計測器であるダイヤルゲージ、またはレーザーで測定するしかありません。しかし、ダイヤルゲージはマグネットベースや専用取付け治具の取付け箇所から測定するカップリングまでの距離が長いと、測定バーを長くしなければなりません。このときバーの長さに比例してダレ(ダイヤルゲージの重さによるバーのたわみ)が発生し、測定結果に影響します。これに対しレーザーは光なので、距離が測定結果に影響を与えることがなく、正確な測定が出来ます。
レーザーを用いた測定の原理は下記でご説明しています。
動かす量(=修正量)を求めるには
測定の結果、現在の状態が判明しますが、次のステップとして修正量を求める必要があります。
例えば、面開きが0.03mmだった場合、軸が傾いているのですからそのままモーターを0.03mm平行移動しても修正できません。修正のための移動量は前脚と後脚では異なるはずです。上述の芯ずれ、面開きに加えて、カップリング径とカップリングから前脚・後脚までの距離が分かれば、修正量は比例計算で求めることができます。
実際に修正イメージを図示して動かす方向を決め、修正量を計算します。なお、レーザー軸芯出し器では測定結果を基に修正イメージと修正量が自動計算表示されます。
修正イメージ
正確な測定の結果、芯ずれとして0.07mmモーターが高く、カップリングは上側に0.09mm広いことが判ったとします。2つの値は許容値である0.05mmより大きいため修正が必要です。
さてモーターを動かして修正したいのですが、どの方向に、どれだけ動かさないといけないでしょうか?カップリングの直径を200mm、カップリングからモーター前脚ボルトまでの距離は200mm、前脚-後脚間の距離は400mmとします。
長さ12cmの直線で理想の軸芯を示す
芯ずれの状況を把握するために位置関係を図示してみましょう。紙を用意します。修正方向をイメージで掴むことが目的ですので、縮尺は10分の1、ずれ量のみ10倍程度で表します。
まず水平に12cmの横線を引きます。これがポンプとモーターを一直線に結ぶ理想の軸の回転中心線です(図 1)。
長さ2cmの直線2本でカップリングを示す
次に、真ん中あたりに、2cmの短い縦線を2本引きます。左側は実線で、右側は点線とします。イメージ図なので位置は大まかで構いません(図 2)。2本の線は少し間隔をあけて引きます。左はポンプのカップリング、右はモーターのカップリングを示します。実際はモーターのカップリングは上側が広いのでこの時点では点線で表します。右の縦線の端点をa点・b点とします。
点線で「芯ずれ」を示す
芯ずれは0.07mmなので、理想の軸心より上方へのずれを図示します。はじめに引いた12cm線は理想の軸心ですから、この線の上方1mmあたりのところに印をつければOKです。この点を通って理想の軸心に平行な直線を引きます。
面開きを図示する
カップリングは0.09mm上側が開いていたのですから、点線を0.09mm右に平行移動(これも1mmの平行移動でOK)させます。平行移動した線の端点をa'・b'とします(図 4)。
a'点からb点へ斜線を引きます。a'-bの斜線がカップリングの傾きを示します。この斜線と先程引いた理想の軸心に平行な線との交点をc点とします(図 5)。
モーターの芯を図示する
a'-b点間を結ぶ斜線に対してc点から直角に線を引きます。この線がモーターの軸の回転中心線を示しています(図 6)。
前脚・後脚の位置を図示する
この線上のc点から2cmの位置がモーターの前脚、前脚から4cm(c点から6cm)の位置が後脚と言うことになります(図 7)。
この簡単な図から、モーターは尻下がりになっているので、シムを加えて上げる方向に修正すべきだということがまず視覚的にわかります。
修正量の計算
さて動かす方向がわかれば次は修正量の計算です。
修正は
- 面開きの修正値を算出し、修正する。
- 芯ずれの修正量(実測値)で修正する。
の2つのステップが必要ですが、上下方向の修正、左右方向の修正をそれぞれグループとすると、グループ内では2つのステップを同時に修正することができます。
カップリングを基準点にして、まず面開きを直すための修正量を前脚と後脚で計算します。この修正によって面開きは修正され、芯ずれだけになるため、その先は4本すべての脚で同じ値の調整をします。
では計算してみましょう。
面の開きは、直径200mmのカップリングで0.09mmですから、その傾きの比は0.09/200です。モーターの軸も同じ傾きの比ですから、前脚では0.09/200 = (前脚での開き)/(カップリングから前脚までの距離)の関係が成立します。
(前脚での開き)=(0.09/200)×(カップリングから前脚間距離)=(0.09/200)×200=0.09mm
同様に
(後脚での開き)=(0.09/200)×(カップリングから後脚間距離)=(0.09/200)×600=0.27mm
そして、芯ずれは0.07mm高かったのですから、下げないといけません。
前脚では面開きを修正するために0.09mm上げ、芯ずれを直すために0.07mm下げます。上げるを+、下げるを-とすると、
前脚修正量の合計=+0.09-0.07=+0.02mm
同様に後脚修正量の合計=+0.27-0.07=+0.20mmとなります。
つまり前脚を0.02mm、後脚を0.20mm高くすれば、面開き、芯ずれをゼロにすることができる訳です。
まとめ
このように修正量計算は、芯ずれと面開きの値、カップリングの直径、カップリングから前脚、後脚の距離が分かれば比例計算で求めることができます。
そして、上下方向の修正について説明しましたが、左右方向もまったく同じ考えで計算します。実際の修正では上下の芯出し修正が完了した後、左右の修正を行います。決して上下、左右を同時に修正してはいけません。