回転機械の軸受診断に有効なショックパルス計測 | TTS

メンテナンスを学ぶ

回転機械の軸受診断に有効なショックパルス計測

軸受け診断の重要性

ポンプやブロワーなどの回転機では、ベアリングの故障は即設備の停止に繋がる重大な問題です。突発故障を避けて、計画的なメンテナンスを行うためには、運転中に潤滑の良否や傷の有無などベアリングの健全性を診断する必要があります。

このベアリングの健全性を診断するには、「ショックパルス」の測定が効果的です。

ショックパルスとは

ショックパルスとは、コロやボールがベアリングのレース面に接触しながら通過するときに発生する衝撃波のことです。レース面に傷が無く、十分な潤滑が行われていれば、この衝撃波は小さいのですが、潤滑不足によって油膜が薄くなったり、傷が発生していれば大きな衝撃波が発生します。従って、この衝撃波の大きさを捉えればベアリングの健全性が評価できるのです。

しかし、この衝撃波の大きさは、ミスアライメントやアンバランスが原因となって発生する振動とは異なり非常に微弱なため、衝撃波の振動周波数としては加速度域であるものの、一般的な加速度センサーの使い方では初期の微小な欠陥を検出することは困難です。

そこで利用されたのが、加速度センサーに固有の共振周波数です。微弱な衝撃波であっても、センサーの共振点では大きな値として現れます。この最大感度点を検出に利用したのが「ショックパルス計測法」です。

ショックパルスを用いた計測とは

ショックパルスは、発生している衝撃波の平均値であるカーペット値と最大値の2つで表現されます。

良好なベアリングならカーペット値と最大値の両方とも小さいのですが、潤滑が不十分になると油膜が薄くなるため、衝撃波が全体的に大きくなり、カーペット値も上昇します。その反面、最大値はさほど大きくはなりません。

損傷がある場合には、損傷部で大きな衝撃波が発生するため、カーペット値も上昇しますが、特に最大値が大きくなります。

良好なベアリングのケース

潤滑油が不十分なケース

損傷があるケース

ショックパルスを用いたベアリングの判定

例えば回転数1550rpmの回転機で、正常なベアリングと意図的に傷を付けたベアリングをそれぞれセットし、ショックパルスを測定する実験を行ったところ、

正常なベアリング
- カーペット値:-3dB 最大値:18dB
傷を付けたベアリング
- カーペット値: 19dB 最大値:45dB

このように明確な違いが現れました。判断基準としては、

  • カーペット値:10dBで潤滑不良を注意
  • 最大値:25dBで傷の発生を注意

と判定することができます。この基準に照らすと、上記の結果は潤滑不良と損傷の両方の存在を示していることが分かります。

事例1.潤滑不良の発見

あるお客様の実例として、37kW、1500rpmのモーター負荷側ベアリングで、カーペット値-2dB、最大値9dBであったものが、2週間後の測定でカーペット値30dB、最大値44dBに変化していました。このケースでは、先ずベアリングに給油した結果、カーペット値、最大値ともに正常な値まで低下し、その後上昇が見られないことから、運転を継続することができました。

img-01

事例2.初期損傷の早期発見

次に、ショックパルスを測定することで、加速度測定よりも早期に損傷を発見できた事例をご紹介します。

11kW、2980rpmのポンプで、加速度値では0.36gと正常域にあったベアリングが、ショックパルスで測定するとカーペット値:16dB、最大値:33dBと測定されました。前述の判断基準に照らして、両方の値に異常がみられたことから、定期点検のタイミングに合わせて分解調査を行い、ベアリングを詳細に検査したところ、ワッシャーに損傷が発見されたのです。

部品を交換して再測定した結果、カーペット値:5dB、最大値:21dBに低下しました。一方加速度は0.32gと僅かに低下しただけであり、ショックパルスの感度の高さが、損傷の早期発見に有効であることが分かりました。

計測比較 加速度法[g] ショックパルス[dB]
測定値 判定 カーペット値 ピーク値 判定
修正前 0.36 正常 16 33 初期故障
修正後 032 正常 5 21 正常

事例3.突発事故ゼロへ

最後に、ショックパルスの活用で突発停止を極限まで減らすことに成功した事例を紹介します。

年間21件の突発停止が起こっていたある工場では、まず日常パトロールでの 五感点検を強化したのですが、その年も17件の突発停止が発生しました。そこで、ショックパルス測定によって数値管理を始めたところ、年間125件もの異常を発見し、突発停止を2件に低減することができました。

その内96件は潤滑不良と診断され、注油によって改善しました。29件は損傷の疑いが強く詳細な検査や交換が必要でした。このため、内27件については元々予定されていた装置停止のタイミングに合わせて、計画的にベアリングを交換することで、突発停止を発生させずにメンテナンスを完了することができました。残りの2件は、継続運転を優先させなければならない事情があり、突発停止のリスクを承知で計画処置を行いませんでした。

img-02

以上の事例からも分かるように、ショックパルス計測は初期損傷を早期に発見でき、ベアリング(転がり軸受)の診断に有効な手段と言うことができます。

関連リンク